第14回「グループ・ダイナミクス」

リーダーシップ理論

第13回は、「集団に目標達成を促すよう影響を与える能力」であるリーダーシップについて学びました。リーダーシップには大きく分けて3つの理論がありました。

1つ目は、優秀なリーダーには共通の資質があると考える資質論です。

2つ目は、リーダーの行動に注目した行動理論です。

そして、3つ目は、リーダーが置かれた経営環境や部下の資質によって、効果的なリーダーシップ・スタイルが異なると考える状況適合理論です。

グループ・ダイナミクス

今回は、リーダーが陥ると組織全体が危うくなるグループ・ダイナミクスについて、学んで参りましょう。米国の心理学者クルト・レビン(1890-1947)は、人間が集団で行動することによって生まれる力学をグループ・ダイナミクス(集団力学)と名付けました。グループ・ダイナミクスには、ポジティブな面とネガティブな面があるのが特徴です。

米国の心理学者ソロモン・アッシュ(1907-1996)は、同調実験をしています。8人のグループ(被験者は1人、残り7人は事前に準備されたサクラ)に、極めて簡単な問題(通常は99%が正解)を解答させます。そして、サクラに対しては誤った回答をするよう指示します。そうすると、被験者50人のうち37人の74%の人が、少なくとも1回は他のサクラに同調して誤った回答をしました。これを「集団圧力(group pressure)」と呼んでいます。

つまり、個人としては正しい判断ができたのに、多数派の力に負けて自分の考えを変えたことが分かります。新型コロナ感染蔓延時に、マスクをつけていない人を激しく罵倒する、他県ナンバーの自動車を傷つけるなどの行為が見られました。誤った判断に囚われない強い意思が必要であると同時に、集団には同調させる圧力があることに留意する必要があります。

特に、日本人は集団圧力を受けやすいと考えられていますが、実はそうとも言えません。日本・米国・中国・韓国の高校生に、「友達に合わせていないと心配になるか」という質問をしました。「そうである」・「ややそうである」と回答した割合は、日本35%、米国55%、中国32%、韓国25%であったという調査があります。集団圧力は、人間に共通した弱点と捉えたほうが正しいようです。

2点目は、集団の構成員が優秀で、内輪で親密かつ外部から隔絶した状態にいると、深く考えずに安易に意思決定してしまうことがあります。また、集団の意思決定は個人の意思決定より適切であると考えがちです。これを「集団浅慮(group think)」と呼んでいます。

集団浅慮には8つの症状があると言われています。それは、(1)自分たちは絶対に大丈夫だという楽観的な幻想、(2)外部からの警告を軽視し、自分たちの前提を再考しようとしない、(3)自分たちが正しいのは当然とし、倫理や道徳を無視する、(4)外部の集団への偏見と軽視、(5)異議を唱えることへの圧力、(6)疑問を提起することへの自己抑制、(7)全員一致の幻想、(8)集団合意を覆す情報から目をつぶるという症状です。

集団浅慮の特徴は、一人で考えれば当然気づいたことが、集団で考えることによって見落とされる現象なので、結束力の固い組織ほど陥りやすいことになります。やはり、多様な意見が言える組織、多様な意見を聞ける組織にしないと、組織は危うくなります。

食品会社の食品偽造問題などは、集団浅慮に陥ったケースと言われています。集団浅慮の状態では、事象を多面的に分析すること、代替案を検討できないことを意識し、勇気を出して誤りを明確に声に出す必要があります。

3点目は、集団の影響の強さを示すものとして、「集団凝集性(group cohesiveness)」があります。高い業績を目指す集団規範を持っていれば、集団凝集性が高いほど成果が高まります。しかし、業績を気にしない集団規範を持っていれば、集団凝集性が高いほど低い成果に甘んじることになります。

さらに、1つの集団内に複数の凝集性が高まると、集団内で対立が起きやすくなります。集団を率いるリーダーは、このような集団の特性を意識しながら、リーダーシップを発揮する必要があります。

次回は、リーダーシップを効率的に発揮するための、分業や調整を行う組織構造について学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。