第25回「キャリア・デザインとマネジメント・スキル」

 第24回では、賃金体系と報酬管理について学びました。賃金体系とは、従業員に支払う賃金の決定基準を示すものです。近年は、日本的経営のひとつである年功主義的賃金から、能力主義的賃金・成果主義的賃金への移行が見られます。報酬管理は、金銭的か非金銭的か、従業員個別対応か共通対応かの2軸から、4つの組み合わせが考えられます。金銭的かつ個別対応は賃金、金銭的かつ共通対応は企業年金・福利厚生でした。一方、非金銭的かつ個別対応は教育訓練・階層別研修・キャリア開発、非金銭的かつ共通対応は組織の中核的な価値観を考慮した人事制度でした。今回は、キャリア・デザインとマネジメント・スキルについて学んで参ります。

シャインのキャリアの3次元モデル

シャイン(Schein,E.H.,1928-2023)は、『キャリア・ダイナミクス』(白桃書房,1991年)において、①組織内で課長・次長・部長などの職位の昇格昇進を通じて、キャリアを形成する階層次元、②製品開発・製造・営業・経理・人事など組織内異動(ジョブ・ローテーション)を通じて、業務内容を変更してキャリアを形成する職能次元、③昇格昇進がなく1部門に長く在籍して、製造・営業・経理・人事など仕事の特定領域の専門性を高めることで、キャリアを形成する部内者次元から成る三次元モデルが存在すると分析しました。

従来の日本型経営では、②の職能次元と①の階層次元を通じて、企業全体の課題を把握して解決できるゼネラリストを重視して人材育成をしてきました。しかし、業務が複雑化して専門性が要求される業務が増加してきた結果、特定の専門分野で成果を挙げるスペシャリストの重要性が高まっています。これは、ジョブ型雇用との関係性が強いキャリア形成と言えます。

カッツのマネジメント・スキル

カッツ(Kazt,R.L.,1922-1988)は、管理者をロワー・マネジメント、ミドル・マネジメント、トップ・マネジメントの3層に区分しました。

その上で、ロワー・マネジメントでは、製品開発・製造・営業などの業務を担当する上で必要な知識や技能(テクニカル・スキル)の割合を多く求められると指摘しました。しかし、組織内外で生じる事象を構造的・概念的に把握し、課題事象の本質を見極めて解決策を導く力(コンセプチュアル・スキル)の割合は少ないと分析しました。

一方で、トップ・マネジメントでは、職場のマネジメントから離れた非定型的な仕事や、長期的な視野に立った経営判断を伴うコンセプチュアル・スキルを求められる割合が多く、テクニカル・スキルを求められる割合が少ないと分析しました。

そして、ミドル・マネジメントでは、現場業務の一部をロワー・マネジメントに権限委譲し、テクニカル・スキルの割合がロワー・マネジメントよりも少なくなります。一方、トップ・マネジメントが立案した戦略を実行しなければならないので、ロワー・マネジメントよりも多いコンセプチュアル・スキルが求められます。

その結果、ミドル・マネジメントはコンセプチュアル・スキルとテクニカル・スキルを同程度求められると指摘しました。管理会計論の中心的研究対象のミドル・マネジメントは、戦略を意識しながらも、予算管理や現場業務の管理を担当し、マネジメント・コントロールを果たします。

図では、3つのマネジメント層で、コンセプチュアル・スキルとテクニカル・スキルが上下逆の三角形となり、同程度の面積となっています。しかし、対人関係を円滑に構築・維持する能力であるヒューマン・スキル(コミュンケーション力・モチベート力・交渉力・調整力)は、トップ・ミドル・ロワーの3層ともに共通して求められるスキルです。次回は、日本的経営について学びましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。