第18回「組織文化」

マトリックス組織と連結ピン

第17回は、マトリックス組織と連結ピンを学びました。マトリックス組織は、市場への迅速な対応、規模の経済の追求、技術的専門性が生かせる長所があります。しかし、その一方でワンマン・ツーボスによる2つの命令系統が生じ、責任と権限が曖昧になる短所があることを学びました。

米国の心理学者R.リッカート(1903-1981)は、下位組織の上司が、上位組織の一員となり、同一人物が上下組織に属する組織構造を連結ピンと呼んで、これが生産性の高い組織であると評価しています。人と人、人と組織、または組織と組織を効果的に結びつけ、コミュニケーションを円滑化し、組織の意思決定や業務推進を支える潤滑油の役割を果たしている組織構造でもあります。

組織文化 ~優良企業の8つの基準~

今回は、組織文化について学びます。トム・ピーターズ(1942-)とロバート・ウォーターマン(1937-)は、日米の優良企業62社を調査し、企業には顧客や企業行動に関する独特の組織文化があることを示しました。2人の共著『エクセレント・カンパニー』では、優良企業には8つの共通した基準があると述べています。

それは、(1)行動の重視、(2)顧客に密着する、(3)自主性と企業家精神、(4)人を通じた生産性向上、(5)価値観に基づく実践、(6)基軸事業から離れない、(7)単純な組織・小さな本社、(8)厳しさと緩やかさの両面を同時に持つというものです。

組織文化は良い面ばかりではなく、組織改革を阻害することもあります。企業の創業期には、創業者の事業理念に共感した共同経営者が必ず存在します。その創業者と創業メンバーから組織文化が生まれます。

一旦、組織文化が組織に定着すると、組織はその文化を維持しようとします。その結果、企業組織は自らの組織文化に合致した従業員を採用し、これを支持する従業員を評価する傾向があります。その結果、組織文化に合致した従業員が残る傾向があり、組織文化を変革することが困難になります。

近年日本企業での問題

近年、日本企業で品質不正やデータ偽装などの問題が発生しています。デロイトトーマツが公表した「企業の不正リスク白書」では、業績などを優先する組織文化がその問題を発生させたとしています。

日野自動車やダイハツ工業では、縦割りで上層部の意向を絶対視する企業体質や、問題を指摘できない組織文化があったとされています。また、三菱電機では、2018年以降品質不正が相次ぎ発覚し、社長や会長の引責辞任にまで発展しました。

ニデックでは、創業者の後任人事において、後継候補を社外から招聘しながら4人の元大企業経営者を退任させています。創業者は、「すぐやる、必ずできる、できるまでやるという創業理念が薄らいだ。組織文化が崩れ去ることに危機感を覚えた。」と記者会見で説明しています。

一方で、米国市場で成功した日本企業の自動車・家電・工作機械では、研究開発・設計・購買・生産など、職能組織間の相互依存と密接な連携が奏功し、協調主義的で一致団結を目指す日本的な組織文化を持った企業が成功を収めています。

企業の経営資源には、必ず強みと弱みが表裏一体で存在します。成功体験を積み重ねると、組織文化は当然視されて議論もされない企業の根本的前提となってしまい、学習しなくなることに問題があります。

次回は、バブル経済崩壊後に根付いた雇用ポートフォリオの内容と問題について学びます。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。