第22回「昇進と昇格」

 第21回では、リカレント教育について学びました。リカレント教育を世界で最初に提唱したのはスウェーデンのパルメ文部相(1969年)です。学校教育を終えて社会に出た後、再び教育を受ける循環・反復型の生涯教育と定義されています。一方、リスキリングは職業能力の再開発を意味し、IT・DXなど組織内で新たに必要となる業務に人材が適応するための教育であり、リカレント教育の一部と解されています。

 一般的な教養教育と異なり、少子高齢化が激しく進行する日本では、リカレント教育は急務の政策課題です。また、少子高齢化社会の日本経済を維持・成長させる効果も期待できます。そして、労働者の雇用所得の増加、人的資本の蓄積、経済成長の促進をもたらす重要な教育訓練です。今回は、職能資格制度における昇進と昇格について学んで参ります。

3つの人事制度

人事制度には、3つの異なる類型が存在します。1つ目は、日本で最も多く採用されている職能資格制度です。これは、職務遂行能力のレベルを基準に等級を決定する人事制度です。職能等級は、職位(部長・課長など)とは別に運用されます。一方で、企業によっては部長・課長は職位ではなく等級であり、職位としてシニア・マネジャー、マネジャー、チーフなどの呼称による職位で運用がされている例があります。従業員の職務遂行能力を客観的に評価するために、企業統一の人事考課項目が定められ、これによって評価されて運用される人事制度です。

2つ目は、欧米でよく見られる職務等級制度で、職務の難易度や責任の大きさを基準に等級を決定する人事制度です。職務等級制度は、第20回「ジョブ型雇用」で学んだ職務分析を実施して職務記述書に記載し、職位を基本に運用する人事制度です。したがって、キャリアを積み上げて職務等級を上げる、転職して上位職位に就くなどを実施しないと、給与も増えません。

3つ目は、役割等級制度です。従業員の社歴や年齢に係わらず、与えられた役割に応じて等級が決定され、報酬や序列を決める人事制度です。従業員が果たすべき役割が明確に定義されるため、その成果に基づいて従業員の評価や報酬が決定されます。また、役割が明確になるので従業員は自主的に行動する、仕事の成果に基づく評価が可能となるので優秀な人材を採用できる、とも言われています。スタートアップ企業、多国籍企業などで主流となっている人事制度です。

職能資格制度の昇進と昇格

1つ目の職能資格制度には、昇進昇格モデルが組み込まれて運用されています。昇進は、現在の職位から上位の職位に任用されることです。昇格は、現在の等級から上位の等級に格付されることです。職能資格制度の特徴は、職位と等級は分けて運用されるのが特徴です。

職位は組織の必要に応じて設定され、複数の対応等級の中から適任者が選ばれます。例えば、図表の部長は管理・専門職能M7~M9級までの等級から選ばれ、部長には年齢や経験差がある従業員が任用されます。下位等級は勤続年数が重視されますが、上位等級は能力や実績が重視されます。

また昇格には、直属上司の推薦、人事考課、筆記試験、適性検査、面接試験、研修期間中のアセスメントなどが活用されます。一般的には、課長職位への昇進は主に部門長や人事部の意向が反映し、部長職位以上では部門長や役員の意向が反映されます。

 人事部ではこれらのデータと経営層の意向を基に、等級経験年数を最短・標準・最長コースなどに分類し、最終等級を類型(モデル)化します。図表では、最短コースは赤字の2~3年、標準コースは青字〇印内に記載している年数、最長コースは緑字の年数を経験します。

つまり、最短<標準<最長のコース別に昇格モデルが設計されているので、最長コースでは、同一等級に長期間に亘り滞留します。その結果、定年時点の最終等級も低くなります。この定年時の最終等級に従い、退職一時金や企業年金が設計されているのが一般的です。また、定年後の再雇用時の給与も、最終等級に従い設計されているのが一般的です。

日本固有の終身雇用・年功序列を組み込んだ職能資格制度及び昇進昇格も、そう甘くはありませんね。次回は、目標管理制度(MBO)について学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。