第6回「ポーターのポジショニング・アプローチ」

経営管理と経営戦略

第5回では、経営管理と経営戦略は車の両輪であることを学びました。組織の経営資源を効率的に統制管理することが、経営管理でした。

そして、経営者が長期的目標への道筋を示しながら、外部環境に組織をうまく適応させ、他企業との競争に勝てる状況や、競争しないで済む状況を作ることが、経営戦略でした。この代表的な理論は、ポジショニング・アプローチとリソース・ベースト・ビューです。今回は、前者を学んで参りましょう。

ポジショニングアプローチとは?

ポジショニング・アプローチは、ポーター(Porter)が提唱した経営理論で、意図的に市場シェアを高めたり、製品の差別化を実施したり、ニッチ市場(大手企業が狙わない小規模で見逃されやすい事業領域)に経営資源を集中するなど、自ら参入障壁を高めて自社に有利な競争環境を作って戦う競争戦略です。

ポジショニングアプローチの基本戦略

競争相手に対して優位な地位を築くために、3つの基本戦略があります

1つ目は、業界内の広い範囲で、競争相手よりも低いコストを実現するコスト・リーダーシップ戦略です。高効率の生産設備を導入し、規模の経済を働かせて大量に生産して、徹底したコスト削減を実施します。

2つ目は、競争相手が真似できない製品を作る差別化戦略です。これに成功すれば、競争相手との価格競争を回避でき、新規参入者の脅威に対抗できる優位な地位を築き、業界平均以上の利益率を確保できます。

3つ目は、特定の製品・サービス・顧客層・地域などを限定的に絞り込んで、低コストで競争するか、他社が真似できない製品・サービスの差別化を図る集中戦略です。

ユニクロのポジショニングアプローチ

 従来のアパレル業界は、製造・卸売・小売企業などの業態が役割分担していました。各企業が独自の情報に基づいて活動するため、在庫ロスや返品が生じていました。その結果、安全性を考慮してマージン(利益)を取るため、販売価格が割高になっていました。

一方、ユニクロは、製品の企画・製造・物流・販売・サービスなどのサプライチェーンを自社で統制管理することによって、情報や製品の流れをスムーズにし、各段階で従来の企業が得ていたマージンを圧縮し、返品をなくしてコストを削減し、低価格を実現しました。

そして、素材メーカーと提携し、他社にない品質のアパレルを提供することに成功しています。

つまり、戦略ターゲットを若年層に特定して、低コストと差別化の両方を実現する経営戦略を採っていると見られます。

 著者が在籍した大阪ガスも、2007年頃から海外ガス田の開発・海外LNG液化基地の運営・自社タンカーでの輸送というエネルギー上流分野に積極的に進出し、国内LNG基地でのガス製造・導管での供給販売など、一連のバリュー・チェーン(価値連鎖)を自社で統制・管理しています。これもポーターの経営戦略を実践したものです。

次回は、もう一つの経営戦略であるリソース・ベースト・ビューについて、学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。