第20回では、メンバーシップ型雇用と対比しながら、ジョブ型雇用について学びました。ジョブ型雇用は企業が業務に最適な人材を割り当てる、仕事主体の人事制度です。職務内容を分析し、これを職務記述書に記載します。そして、職位を基本に運用され空席が生じれば、その人材を補充する制度です。給与は労働市場での価値で決まり、人材の流動性が高くなり、同種の業務経験者が採用されます。
一方、メンバーシップ型雇用は企業が人材に最適な業務を割り当てる、人材主体の人事制度です。職務内容や勤務場所を限定せず、給与は人事考課、職位経歴、勤続年数などを反映した職能等級によって決まります。その結果、人材の流動性が低く、一般的には新卒の一括採用が中心となります。また、終身雇用や年功序列と一体運営される雇用制度です。今回はリカレント教育について学びます。
リカレント教育って何?
リカレント教育を最初に提唱したのはスウェーデンのパルメ文部相(1969年)で、1970年代初頭にOECD(経済協力開発機構)が積極的に国際社会に普及させました。学校教育を終えて社会に出た後、個人のニーズに合わせて再び教育を受ける循環・反復(recurrent)型の生涯教育であると定義されています。
一方、リスキリングは職業能力の再開発を意味し、IT・DXなど組織内で新たに必要となる業務に、人材が順応するための教育と定義され、リカレント教育の一部としてリスキリングが存在すると解されています。しかしながら、現在ではリカレント教育とリスキリングの厳密な使い分けをせずに、同義語として使われているようです。
多くの経済学者は、「従来型高等教育だけでなく、少子高齢化が進行する日本では、急務の政策課題である」、「高等教育補完型リカレント教育の拡大が、経済成長に寄与し、少子高齢化社会の日本経済を維持成長させる」、「リカレント教育は労働者の雇用所得の増加、人的資本の蓄積、経済成長の促進をもたらす」と指摘しています。しかし、その実施は都市部に偏っていて、地方で実施されることはほとんどありません。
日本の能力開発支出
少子高齢化が継続し、生産年齢人口(15-64歳)が激減する日本において、高齢者・女性・外国人労働者に関する現在の制度を変更せず、労働投入量を拡大することは困難です。これらの労働量の拡大を目指すと同時に、必要なのは労働生産性の向上です。そのためには、人的資本の投資が必要です。
厚生労働省「平成30年版労働経済の分析」で、先進各国のGDPに占める日本企業の能力開発費支出は、6か国中最低レベルです。さらに、時系列に見ても減少傾向にあり、直近では米国やフランスの20分の1、ドイツ・イタリア・英国の10分の1以下となっています。1980年代にJapan as No.1と世界中から賞賛された日本経済下では、職場内訓練(OJT)や職場外訓練(Off-JT)によって、積極的な人的資本の蓄積が見られました。
しかし、1990年代のバブル経済の崩壊、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災を経て、日本企業は人的資本の蓄積を抑制してしまいました。著者は、これが失われた30年を誘発した原因のひとつではないかと見ています。
第19回「雇用ポートフォリオ」で学んだように、バブル経済崩壊後に企業は生き残りをかけて、正規雇用を守りながら非正規雇用の割合を拡大して、損益分岐点売上高を引き下げて利益確保に走りました。しかし、労働生産性を高める人的資本投資まで削減してしまったのです。
地方都市でのリカレント教育
日本のリカレント教育は、地方都市では見られずに、都市部での開催がほとんどです。また、新型コロナ禍を契機に、オンライン教育も一般化されて来ました。少子高齢化が激しく、生産年齢人口が激減し、人手不足が深刻な地方都市こそ、リカレント教育が必要です。
著者は、2022年9月にかつての所属大学(兵庫県豊岡市)で、社会人向けのリカレン教育を対面で企画・運営しました。同地域の象徴でもある天然記念物コウノトリに因んで、名称は但馬ストーク・アカデミーとしました。
社会人の希望が多い経営学10講座(経営戦略、経営管理、人的資源管理、IT・DX、マーケティング、生産管理、財務管理、資金調達、ビジネスプラン、コミュニケーション)を選定し、1講座を90分3回コースとしました。そして、同地域の行政の広報紙、商工会議所・商工会の広報紙やWEBを活用したPRを実施し、同地域の有力な企業30社を訪問して経営者と面談し、各企業従業員のリカレン教育への派遣を依頼しました。
その結果、受講者は想定以上の215人となりました。受講後の調査では、課題意識を持って参加された方が75%、新たな気づきがあった方が97%、受講満足度は94%、次年度受講希望者は96%と、想定以上の高い評価を得ました。
一般的に、教育は継続が必要です。2023年度もこの大学で社会人を対象としたリカレント教育が実施されました。ぜひ、今後も引き続き継続実施されることを期待しています。次回は、職能資格制度で運用される昇進と昇格について学びます。
福嶋 幸太郎 ふくしま こうたろう
著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。