バーニーのリソース・ベースト・ビュー
第6回では、ポーター(Porter)の経営戦略論を学びました。意図的に市場シェアを高めたり、製品の差別化を実施したり、ニッチ市場に経営資源を集中するなど、自ら参入障壁を高めて自社に有利な競争環境を作って戦う、ボジショニング・アプローチを紹介しました。
経営戦略論において、これに対比されるのがバーニー(Barney)のリソース・ベースト・ビュー(Resource Based View)です。バーニーは、企業内部の経営資源に着目し、持続的競争優位の源泉となる4つの観点から、企業の経営資源を分析しています。
持続的競争優位の源泉となる4つの観点
第1は、経済価値(Value)です。市場で受け入れられ、脅威や機会に適応できる経済的に価値のある経営資源があるのか、他社より顧客ニーズの充足度が高い価値のある経営資源があるのか否かを確認します。
第2は、希少性(Rarity)です。少数の競合企業しか持ち得ない希少な経営資源があるのか、またどの程度の競合企業がこの経営資源を保有するのか否かを分析します。例えば、百貨店やホテルでは、ターミナル駅前の希少な立地は競争優位の経営資源となります。
第3は、模倣困難性(Inimitability)です。競合企業が簡単に真似できない経営資源があるのか否か、仮に真似をするには高いコストや時間がかかる場合は、競争相手による代替が困難となると推測されます。このような模倣困難性が、持続的競争優位を確立できることになります。
第4は、組織能力(Organization)です。これらの経営資源を運用可能な組織力があるのか、組織体制を保有しているのか否かを分析します。これら4点から、企業の持続的競争優位性があるか否かを評価分析する手法が、VRIO(ヴリオ)フレームワークです。
企業が持続的競争優位を実現するには
言い換えれば、経済価値(Value)のみを満たす企業は生存可能ですが、標準的です。経済価値に加えて希少性(Rarity)を満たす企業で、模倣困難性(Inimitability)を持たない企業は一時的に競争優位を築けますが、その地位を継続することは困難です。
そして、企業が持続的競争優位を実現するには、模倣困難性を保有し、全ての観点を満たす経営資源を開発できる必要性があります。その上で、組織(Organization)を適切に運用する能力も必要です。それぞれの頭文字を取って、VRIO分析とも呼ばれています。
ブルー・オーシャンの可能性
ポーターは企業を取り巻く外的環境要因を分析することによって、競争しやすいまたは競争しなくても済むポジションを探して、活動することを提唱しています。しかし、バーニーは、企業の外的経営環境よりも、戦略を有効に機能させる企業内部の経営資源と組織能力の方が重要であると主張しています。
言い換えれば、ポーターは、競争が激しく利益を獲得しづらい魅力の乏しい業界(レッド・オーシャン)には参入すべきでないと主張します。そして、競争が少なく利益を獲得しやすい魅力のある業界(ブルー・オーシャン)で戦うべきであると論じています。
しかし、バーニーは一見すると魅力の乏しい業界でも、継続的な創意工夫次第では収益性を確保できると論じています。例えば、小売業のウォルマート、書店のアマゾン、PC製造販売のデルなど、既に成熟した業界でも、模倣できない経済価値を産み出すことで十分戦うことが可能であると考えているのです。
トヨタ自動車でみてみると
例えば、トヨタ自動車にバーニーのVRIO分析を援用すると、自社工場で迅速かつ詳細な生産調整が可能であるのは同社の経済価値であり、人とロボットが共存する自動化された生産方式は希少性があります。
そして、トヨタ生産方式は簡単には真似できない模倣困難性を具備し、カイゼンを基礎とする生産方式の長年の運用によって、生産組織能力が定着しています。しかし、不確実性と変化の激しい、脱炭素・EV(電気自動車)への自動車生産の変革期に、自動車製造業の地位が永続的に保証されている訳ではありません。その意味では、トヨタも百年に一度の大きな変革期を迎えています。
次回以降は、経営戦略論に先立って普及した経営管理論、経営学を切り開いた科学的管理法に遡り、経営管理論の内容と発展の歴史を学ぶことにしましょう。
福嶋 幸太郎 ふくしま こうたろう